「ならば私は小鳥の様な歌声が欲しい
わ」
大きなハリボテのマスカレイドと向か
いあいながら、背後に眞樹の声が聞こ
える。
体育館には壇上を問わず人が溢れかえ
っていた。皆一様に文化祭の準備に追
われている様で、あちこちから大きな
声が高い天井を衝いている。
そんな中、壇上では眞樹が両手を大き
く広げながらゆっくりとした足取りで
謳う様に、端から端へと歩を進めてい
た。
「これはね、さるお姫様の話なの」
ライトに照らされる眞樹を見ながら、
聞かされたあらすじに考えを馳巡らせ
た。
昔々ある所に、一人のお姫様が生まれ
ました。
それまで子供のいなかった王様は大層
喜び、国を挙げてのお祭りが三日三晩
に渡って続けられたほどです。
大きな病気もせず、お姫様はすくすく
と、それは美しく成長していきました。
そんな16歳の誕生日に、さる魔法使い
が三つの願いを叶えると申し出ます。
「どんな願いでも叶えられますが、三
つの願いを使い切ったらもぅどんな願
いも叶いませんよ」と。
姫はそんな事は構わない、と願いを考
え始めます。
小鳥の様な歌声、花の様な姿、そして
凛々しい王子。
魔法使いは願いを叶えました。
やがてその王子様と結婚したお姫様は
皆に祝福されながら、幸せに暮らして
います。
壇上の眞樹が王子役の男子生徒と踊っ
ている。
まるで遅滞の無い足の運びは、俺の目
から見ても中々のものだった。無理や
り作らせた急ごしらえの紅いドレスが
遠心力を受けて、その花を咲かす。
しかし、やがて王子様は王様へ。お姫
様はお妃様へなりました。
お妃様の子供の王子様とお姫様もそれ
美しく強いと評判で、王様も安心して
国を任せる事が出来ると、安心です。
やがてお妃様は病気に掛かってしまい
ました。
王様に抱かれながら、最後にお妃様は
いいました。
「もっと強く抱きしめて」
眞樹の声は弱々しくも、しっかりと体
育館の隅にまで響き渡った。誰もが手
を止めて、壇上に見入っている。
やがてスピーカーからナレーションが
場を引き継いだ。優しそうな女の声だ。
「しかし、その願いが果たされる事は
ありませんでした」
至る所でどよめきが起きる。
その間も壇上では、真紅のドレスのお
妃様は動きもしない。だた、王様に抱
きついたまま。
「願いが果たされる訳はなかったので
す」
ナレーションは穏やかに続いていく。
「全ての願いは、お姫様の16歳の誕生
日に全て使い切ってしまったのですか
ら……」
お妃さまは動かない。
隣にいた一年生が、思い立った様に拍
手した。
おしまい。