「全くメンドクサイと思わない?」
夕陽に染まる美術室。
半ば埃の篭った空気を窓から逃がしな
がら、眞樹が言う。秋に差し掛かった
時期特有の、得も言われぬ喪失感を持
った空気はいつも通りにカーテンを揺
らしている。
「将来何になりたいか、なんて小学生
じゃあるまいし。ねぇ?」
「いや、小学生じゃ無いからこそ真面
目に考える必要があるんだと思うぞ」
俺はキャンパスから目を離さないまま、
背中越しで不平を漏らし続ける眞樹の
憤然とした質問に答えた。
「んなこと言われたってねぇ……どう
なるかわかんないじゃん。明日急に宇
宙飛行士になりたくなるかも知れない
でしょ」
さながら猫じゃらしと戯れる猫の様に、
カーテンへジャブを繰り出しながら絶
える事無く不平を漏らし続ける。
よほど今日渡された進路希望に対して
憤慨、ないし困惑している様だった。
遠くから僅かな喧騒が聞こえる。
遠ざかり聞こえなくなると、またカー
テンの擦れる音とそれが柔らかく叩か
れる音のみが、静かに積もり始める。
「大体さぁ、現実と夢どっちをとれっ
ていうのよ。一種拷問よ、じゃなきゃ
プライバシーの侵害だわ」
「お前は一体何がそうも不満なんだ」
さすがにこうも不満ばかりではこっち
が参ってしまう。覚悟を決めると、俺
は筆を止め眞樹へ向き直った。
「舞台役者になりたいって言ったら真
面目に人生を見据えろだって。じゃぁ
OLって言ったらもう少し可能性を見
ろって。訳わかんない」
成程、それは確かに文句の一つも言い
たくなるだろう。まぁ、俺以外にして
欲しいものだが。
「それが人生ってものだ。他人に何て
言われようが、関係ないだろ。特にお
前には」
「まぁ、そうなんだけどねー」
それきり会話が途切れてしまうと、俺
はキャンパスへ向き直る。
「なーんも考えないで、ふわーっと飛
んで行けたらいいのにね」
「糸が切れた凧は只流されるだけだぞ」
キャンパスの海へと青を引いていく。
夕陽にぶつかって、キャンパスの海は
エメラルドグリーンに光っていた。
おしまい。